東京都写真美術館 「なにものかへのレクイエム」

今日、母のお伴で恵比寿に行ったのだが、ふと東京都写真美術館の展示ポスターに眼を奪われた。
「森村泰昌  なにものかへのレクイエム」展
み、見たい!!!!
と矢も楯もたまらず、母を引っぱって入館。ここへ来たのはとても久しぶり。10年以上経つかなぁ…
「写真はあんまり好きじゃないんだけど~」と言っていた母も、入館するなり熱心に作品を眺めていた。
それもそのはず、森村氏の作品はとてもユニークというかセンセーショナルというか、私のように写真がよく分からない者にもとても面白い。写真を鑑賞する趣味のない人(たとえば私の母)の関心までも鷲づかみにして引きずっていくような力強さがある。
自分の肉体を使って、世界の名画・有名人・歴史上の人物を表現し、セルフ・ポートレイトの形で発表しているのだ。
彼はマリリン・モンロー、マドンナ、モナ=リザといったシンボル的な女性までも表現してしまう。
今回の展示のテーマは「20世紀との対話」、20世紀の男たちに「なる」事を通して20世紀とはどういう時代であったのかを考えること。
展示中で森村氏が表現したのは、毛沢東、アインシュタイン、パブロ・ピカソ、アンディ・ウォーホール、ダリ、チェ=ゲバラ、エイゼンシュタイン、三島由紀夫、マッカーサー、昭和天皇、手塚治虫、etc. etc、、どれも写真で見る本物とそっくり。それも、ただ「そっくり」と感心させられるばかりでなく、その時代の空気や、本物の人物の内面までも表現しているように思われ衝撃的だった。
私は氏の写真作品しか知らなかったのだが、今回は数点の映像作品を観ることができた。その中で森村氏は、ヒットラー(チャップリン)、三島由紀夫、レーニン等に「なって」いる。(「演じている」という言葉は正しくない気がする)
特に、自衛隊市ヶ谷駐屯地で割腹自殺を果たす前の、檄を飛ばす三島由紀夫に「なっている」作品は圧巻。
延々と口角泡を飛ばす憂国の士ミシマ。そして最後に、彼の眼前には現代の公園の風景が広がる…  咲き乱れる花、のんびりと休日を楽しむ家族、携帯電話をのぞきこむ若い女性…
胸を突かれた。
左右2分割されたスクリーン。その片方でチャップリン演じるところのヒットラーと「なり」、めちゃくちゃな内容の日本語を叫び続ける森村氏。まくしたてているのは日本語なのだが、これがチャップリンのヒットラーにしか見えない!そのチャップリンの画像が静止すると、もう一方のスクリーンで素顔のチャップリンが愁いをたたえた表情で淡々と、独裁者というものへの自分の想いを英語で語る。I don’t want to be a dictator… (私は独裁者になりたくない)これが数秒ずつ交互に続いてゆく。
そして最後に素顔のチャップリン(森村氏)が
「あなたは家族、友人、恋人に対する独裁者になっていませんか?」「身の回りの自然、生命、道端の石ころに対する独裁者になっていませんか?」云々…と私たちに問いかける。
硫黄島の戦いをテーマとした『海の幸・戦場の頂上の旗』。非常に静かで、しかもどこか荒唐無稽な表現であるのに、胸に切々と迫ってくるものがあった。
森村氏があらゆる人物に「なってしまう」こと、その時代や人物の内面までも再現してしまうこと、これはどういうことなのだろう。単なる「扮装」ではないのだ!!。。。たぶんこの事についてはいろんな美術評論家が論文を書いているのだろうな、読んでみたい。
…うーん、、、
森村氏のパフォーマンスはまるで、自分ではない者の魂と記憶を呼び出し、自らの肉体に憑依させてしまうという感じだ。それを観る私は混乱し、言葉をうしなう。
森村氏の「三島由紀夫」映像を観ている時には、思わず、「その時」の「本物」の三島の姿を目の当たりにしているように感じ、喜びに似た感動を味わってしまったほどだ。そして、最後に映る現代の平和ボケしたような穏やかな風景を見て、「あ、違う、あれはMISHIMAではなかった」と落胆。。。
時代は決して巻き戻せないのに。森村氏はたやすくその身体で巻き戻し、再生してみせる。
もし森村氏に会えるようなことがあったら、 (<絶対無理)
…恐ろしくないのですか??? 
自分の精神を「彼ら」に乗っ取られる恐怖は無いのですか?
と問いかけてみたい気がする。

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コメント

コメント一覧 (2件)

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    芸術新潮だったと思いますが、チラッと見た記憶があります。
    縮小された写真ゆえにか拒否反応でしたが、実物だと違う印象かもしれません。

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    キワモノ的印象を受けて興味を持てないこともあるでしょうね。
    しかも一点のみ、という場合など…
    現物はとても大きい版 (150×120など)で、カラ―でもモノクロームでも色に深みがあり、実に美しいです。 そしてテーマに添ったものを数点まとめて見ると印象がかわるとおもわれます。

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