文楽相模原公演: 仮名手本忠臣蔵   その4

五、六段目はまさに「運命のいたずら」を描いたものだと思う。
舞台が始まるまえに、人形遣い吉田一輔さんがストーリー解説をして下さったのだが、
そのお話のなかで 「ボタンの掛け違いが人々の運命を狂わせて、、」という表現が。
幕が下りたあと、「あぁ、確かにそういう話だなぁー」と腑に落ちたことであった。
よくもまぁこんなに線と線が絡み合って悲劇に至ってしまうものだというような…
六段目を締め括る‘早野勘平腹切の段’、、
見どころは、やはり勘平が亡き主(塩谷判官)の敵討に加われぬ無念をいだいたまま腹を切る
哀れさ&最期に舅の死に関する汚名を晴らし、同志に「魂魄この土にとどまって、敵討の御供する」と伝えることが出来た場面だとおもうのであるが、、、自分としてはそこにはあまり心が動かされなかった… 
というのは
なぜ彼が敵討に加われない状況だったかというと
勘平は塩谷判官の家来で供を命じられていながら、
塩谷判官が高師直に侮辱され刃傷沙汰を起こしたまさに其の時に、恋人と密会していて
その場に居会わせなかったからなのだった。
私としては………   それは… いくらなんでもダメでしょ。
と、彼に最後まで感情移入できなかったんである。(これは完全に自分の好みの問題)
とはいえ、彼は刃傷事件直後に不忠を恥じて死のうとしたのだけれどもね… (←恋人おかるが泣いて思いとどまらせた)
(しかし、いま冷静に考えると、「若い奴はそういうバカなことをやってしまうものだ」という脚本家の鋭い考察
に基づいて書かれたものなのかも…   いつの時代もこういうことは起こりそうである)
その代わりといってはナンだが、自分は別の場面でこころ揺さぶられた。
『身売りの段』の最後、勘平の女房おかるが大金をつくるために身売りし連れ去られて一旦幕となり、
(この大金は勘平の主君の敵討ちのために用意)
娘を乗せた駕籠を老母が玄関の柱に取り縋るようにして一人見送っている姿から『早野勘平腹切の段』が始まるのであるが、
そこで呂勢大夫さんが「急ぎける~~」と語り始めた途端、
(´;ω;`) ブワッ

それはもう前触れもなく。
一旦幕がおりて上がって話が再開するところだったから、私もあらためて話に聞き入ろうとしていた矢先、
義太夫(呂勢大夫さん)の声が入って、グーッと胸に迫って来てぶわっ。
何に対する「ぶわっ」だったかというと、おかるとその母の哀れさに対して、だと思う。
二人とも知らないのだが、おかるの父はその時既に山賊に殺害されていて、しかもその殺人の罪が勘平に降りかかろうとしているのだ… (すみません、観ていない人には何がなんだか、でしょうけれども)
何のためにおかるは売られていかねばならんのだ、あのお母さんも何にも悪いことをしていないのに娘は売られる、夫は殺される、可哀そう過ぎる~
もうあれはなんというか、心にドォンと鉄砲水が押し寄せる状態とでも言おうか、
ほんとうに、こういうことがあるから人形浄瑠璃ってすごいとおもう。
やめられない。
呂勢大夫さん、何年か前の舞台では 
「すごい美声だけれど、なんだか派手さが目立ってしまって情緒が…」と
若干物足りなさを感じた記憶があるが、
今回、確実に渋味・厚みを増しているようにおもわれた。
つづく

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コメント

コメント一覧 (6件)

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    武蔵とお通がそばにいながらなかなか出会えないもどかしさのような 観ているこっちは全部わかってるのに舞台の人物は何にもわかってない「志村 後ろ!」みたいな状況ですね
    イノシシと間違われて撃たれて死んじゃう人もいましたよね

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    こんにちは。浄瑠璃も歌舞伎も全然詳しくないにも関わらず、おじゃましちゃいます♪
    イノシシに間違われて撃たれちゃう人って…定九朗でしたっけ?
    私が小さい頃愛読していた漫画「のらくろ武勇談」に定九朗が撃たれる場面が劇中劇として取り上げられていました。
    その劇では勘平の火縄銃は軽機関銃(!)に代わり、しかもくだんの五十両は親切にもイノシシが届けに来たので(笑)勘平が切腹する必要がなくなるというミラクルな話にすりかわっていました(爆笑)。
    この後は昔何かの雑誌で読んだ受け売りですが…。
    かつてこの定九朗の登場場面は人気がなく、観客が弁当を食べ始める時間とされていたとか。
    なんとか観客の目を舞台に向けさせたい、と考えた当時の役者は、登場する直前に頭から水をザンブとかぶったそうです。
    水を滴らせながら与市兵衛を斬る場面は凄みを感じさせて見事に観客の目を引き付け、以来定九朗は「悪の色気」とでも呼ぶべき魅力を放つことになったとか…。

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    話の筋がわかっているのにヤキモキしたり泣いたり、
    作者の思う壺です ^^;
    縫いぐるみのイノシシを黒衣(くろご)さん一人で遣って舞台を駆けぬけていく時、
    一瞬ちょっと笑ってしまうような空気が流れるのですが、
    その前に定九郎(山賊)が与市兵衛(おかるの父親)を惨殺して谷に蹴落とす場面があるので(かなり酷いシーンです。あれは人形じゃないと見ていられないかも)、ちょっとこれで観客が救われるのかなとあとでおもいました。、、

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    お馬鹿な話じゃないですよー!(汗) いろいろ参加していただけたらほんとに嬉しいです ^^
    足軽さまの紹介してくださった歌舞伎役者(=それまでつまらない端役だった定九郎をすごい悪役に作り替えた人)は中村仲蔵という人なんですが、
    今年、初めて立川志の輔さんの落語を聞きに行ったとき、たまたま『中村仲蔵』をやってくれたんですよ!
    落語、といっても面白可笑しく笑わせるほうじゃなくて、しんみりと泣かせるほうの噺でしたね。
    中村仲蔵が、役者の世界で這い上がろうとしているところにこの定九郎の役を与えられ、
    あれこれ苦しみながらすばらしい悪役(舞台衣裳も彼が考案)に仕上げるまでのお話でした。
    人形浄瑠璃の定九郎も、黒い着物を着た派手な悪役でしたので
    (中村仲蔵以前は汚いボロと頭巾をまとった格好だった、と志の輔さんが語ってらした)、
    たぶん歌舞伎から演出を取り入れたのだと思われます。
    イノシシが届けてくれるなんて心温まるお話に~(笑) 田河水泡センセイ優しいですね。
    のらくろ、わたしも昔(同級生が父上所蔵の復刻版を貸してくれた)少し読んだことがあるのですが、
    詳細は全然おぼえていないのです。
    年齢を重ねた今、また読んでみたら味わい深い気がします。

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    中村仲蔵の話は松井今朝子さんの「仲蔵狂乱」で読みました これも面白かったですよ

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    「仲蔵狂乱」、いまリイド社の時代劇雑誌で連載されているので楽しみに読んでます(^.^)
    (作画:高見まこさん) 

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