『安らかな日々』(杉浦日向子、『ニッポニア・ニッポン』収載)

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『安らかな日々』、読むたびに深く胸を突かれて涙する。
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主人公の鉄三郎は、父と折り合わず若くして家を出奔、江戸へ出た。
優れた頭脳の持ち主であったのだろう、今では江戸で本草学者として成功、多くの門人に教え、
家庭をもち息子も得ている。
故郷の知人と久方ぶりに出会ったところが、家を継いでいる筈の兄が亡くなっていたことを知る。
この兄は、血のつながらない兄であった。
父と母には子が授からなかったので養子を迎えていたのである。その後に生まれたのが鉄三郎。
彼を生むと同時に母は死に、男手ひとつで息子二人を育てた父。
鉄三郎がなにかと父とぶつかっていた一方で、穏やかな兄は
父と鉄三郎(=父の実子)との間をとりもとうと心を砕いていた。
鉄三郎は父と絶縁状態であったために、その優しい兄の死を知らずにいたのである。
そして、おそらくは二十年近く戻らなかった故郷に鉄三郎は息子を伴って帰った…
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親子の絆。
血のつながらない兄との深い絆。
読むたび涙がふわふわと出てきてしまう。
なぜだろうか、恐らく私の周辺にはこのような(有り様はあまり同じではないけれど)ぎこちない親子関係で苦しんだ者がいるからだろうか。
私の亡父然り、母然り。行方知れずになった叔父。
私のきょうだいもまたそうかもしれない。
そして、私は作者のその眼差しに驚嘆するのである。
此のたった24ページの作品は作者が20代の頃につくったものなのだ。
『ユリイカ』などの本で読む限り、杉浦氏はとても温かく愛情にめぐまれた家庭で育ったように見える。
このような親子の確執をいつ知ったろう。
この作品について謎がひとつある。
それはその題名、『安らかな日々』。
誰の(父の?鉄三郎の?それとも亡兄の?)、どの安らかな日々なのか。なぜ、安らかなのだろうか。
物語のエンディング、あのシーンを指しているのか?
正直、よく分からない。
鉄三郎とその父は確執を超え、ついには安らかな親子の時間を手にいれた、ということなのだろうか。

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コメント

コメント一覧 (2件)

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    杉浦さんの作品は少ししか読んでいませんが
    NHKの「お江戸でござる」(でしたっけ?)での解説が印象に残ってます
    読んでみますね

  • SECRET: 0
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    私は杉浦さんの漫画が大好きで…  
    杉浦さんが著述業・TV解説に移行してしまったときはタイヘン残念でした。
    『ニッポニア・ニッポン』におさめられている『冥府の花嫁』『鏡斎まいる』もとても好きな作品です。

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