『夢の江戸歌舞伎』: 8年かかってつくられた絵本

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『夢の江戸歌舞伎』(岩波書店)という絵本がある。服部幸雄: 文 & 一ノ関圭: 絵。
なんとこの絵本は企画開始後8年という歳月を経て上梓された。…8年。
服部先生は日本文化史・歌舞伎研究者である。私も『大いなる小屋: 近世都市の祝祭空間』という本を持っているが、専門書だけれどシロートの私にもわかりやすい。愛する本の一冊である。この‘大いなる小屋’の‘小屋’とは芝居小屋のことを指す。
そしてこの絵本『夢の江戸歌舞伎』の主役もまさに芝居小屋である。タイトルを聞いただけではどうしても歌舞伎役者とか、きれいな舞台ばかりを想像してしまうが… (タイトルは再考の余地があると私は思う)
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そして作画を担当したのは知る人ぞ知る漫画家、一ノ関圭氏。
もうこのかたは超絶的に、恐ろしいほど絵が巧い人である。(←東京藝大油画科卒)
しかも物語の着想・構成力にもすぐれ、実に骨太で重みのある作品を生み出してきた。
(最新作の『鼻紙写楽』の掲載誌が休刊になり、読めなくなって残念至極。。。)
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この一ノ関氏の筆により、芝居小屋を埋め尽くす観客、裏方さんたち、出を待つ役者たち、奈落の底で回り舞台を回す男たち、などが俯瞰して描かれている。すべての絵に描きこまれた人間の数を足し上げたら1000人近くなるのではないだろうか。
絵は15場面おさめられているが、それぞれについて4,5回は描き直したそうだ。気の遠くなるような作業…     
この絵本には見開きで15場面の絵と、そして20数ページの解説文が収録されている。実に読み応えがあるし、絵の中にいる数百人のひとびとが一人ずつ異なる表情・姿をしているので、ディテールを見始めると時間が経つのを忘れる。(楽屋裏の隅に白猫が寝ていたり、大道具さんのよこを白黒猫が歩いていたりするのも御愛嬌)
“この本の絵は、すべて信用のできる資料に基づいていて、かくもあらんかという想像で描かれています。場所は江戸の芝居小屋、中村座、時代は文化・文政期、特に文化の初期とねらいをきめて、しっかりとした文献や絵画資料をふまえた想像図、イマジネーションとして描いていただきました。学問的評価にも堪え得るものと思っています”(付録に記載されている服部先生のコメントより)
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8年という歳月は、一ノ関氏がかたっぱしから歌舞伎を観にゆき、歌舞伎関係者やゆかりの地を取材し、さらには地方の芝居小屋に足をはこんで歌舞伎のことを学び、さらには何度も絵を描き直したために経過したもののようである。
その甲斐有って素晴らしい絵本となっている。
8年かけてつくられた本…  企画が潰れてもおかしくないような時間だ。周囲の人が完成を辛抱強く待ち続けたのだろう。なんという幸運。
歌舞伎や江戸の芝居小屋に興味のあるかたは一度ご覧になっては如何でしょうか。

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